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バスの運転手が足りない、地方の路線が廃止される、免許を返納したら外出できない ――「移動の権利」が揺らぐ地域の現実に、自動運転・EV・公共ライドシェアはどこまで答えを出せるのか。

2025年4月24日、EV地方創生フォーラムは第1回EV共創サロンを開催しました。法制度・社会受容性・現場実装・事業化の最前線に立つ3名の登壇者のもと、自治体職員・研究者・メディアも交え、技術と地域の交わる場所での真剣な対話がおこなわれました。

レベル4自動運行の実例、現場に立ちはだかるコストと充電インフラの壁、そして「交通不利な人ほど自動運転を受け入れにくい」という社会実装のパラドックス。この場で交わされた議論のエッセンスをレポートします。

概要

EV地方創生フォーラムは、環境エネルギー政策研究所(ISEP)が主催する、自治体・事業者・研究者・市民をつなぐ政策対話の場です。今年度より新たにスタートした「EV共創サロン」は、EVモビリティに加え、自動運転もテーマに加え、対面で議論し、参加者同士の交流を深めます。

第1回となる今回は、エネルギー転換と地域モビリティの融合をテーマに据え、特に自動運転バスを含む新しい公共交通のあり方が議論されました。バス運転手不足や地方の移動困難といった社会課題に対し、技術・制度・エネルギー・社会受容性の4つのレイヤーをどう統合的に進めるかが論点となり、研究者・自治体・事業者それぞれの立場から最前線の知見が共有されました。

冒頭の開会挨拶では、ISEPの飯田哲也所長より、世界全体でEVシフトが加速し、自動車販売の4台に1台がEV(プラグインハイブリッド含む)に置き換わりつつあるという潮流が紹介されました。あわせて、再生可能エネルギーと電動モビリティの親和性(セクターカップリング)に触れ、地方創生という観点から、地に足のついた取り組みを積み重ねていく重要性が強調されました。

基調講演:「自動運転の法制度・政策最前線と地方モビリティ変革の可能性」/樋笠尭士氏(多摩大学経営情報学部 准教授)

樋笠尭士氏(多摩大学経営情報学部 准教授)

概要

樋笠氏は法律を専門としつつ、ISO(国際標準化機構)の道路交通安全に関する委員を務め、近年はデータサイエンスの手法を用いた社会受容性研究にも取り組んでいます。

講演では、まず憲法13条の幸福追求権を出発点として、「移動は社会参加の前提である」という基本認識が共有されました。地方の交通空白問題と都市部のラストワンマイル問題は性質が異なるものの、いずれも自治体ごとの実態把握が不可欠だと指摘されています。

続いて、2026年6月末に発効予定の国連の新基準(自動運転レベル4以上の規則)が紹介されました。新基準は、自動運転システムに対して「有能で注意深い人間運転者(Competent and careful human driver)と同等以上の水準」を求めるもので、メーカーが自らセーフティケース(安全性に関する主張・論証・エビデンス)を構築・更新する責任を負う設計になっている点が特徴です。

樋笠氏は、独自のアンケート研究で明らかになった日本特有のギャップを提示しました。一般市民の約8割が自動運転に「人間より安全」あるいは「完全に安全」を求めている一方、専門家でそこまで求めるのは5割を下回るという結果です。国連基準よりも一般市民の要求水準が高いという事実が、日本における社会実装の難しさの一因となっています。

さらに東京都瑞穂町などでおこなった自動運転バスのフィールド調査からは、興味深いパラドックスが明らかになりました。「交通不利(運転免許なし、コミュニティバス未利用、65歳以上、の3要素を指標化)」の度合いが高いほど、再利用意図・安全性認知・協力行動・公共交通への規範意識がいずれも低下する傾向が見られたのです。つまり、本来もっとも自動運転を必要とするはずの層が、もっとも非協力的になりやすいという構造です。

最後に、樋笠氏は「技術・エネルギー・制度・社会」の4レイヤーを統合的に捉える「統合モデル」の必要性を強調しました。技術論やコスト論だけで議論するのではなく、サイエンスコミュニケーションを通じてリスクと安全性を市民に伝え、「乗らない人」も含めた合意形成を進めることが、これからの地域モビリティのカギになると結ばれました。

特徴的な事例として紹介されたもの

  • 小学生向けに、LiDAR(自動運転の「目」となるセンサー)の仕組みや弱点を体験させる出前授業
  • 行政・企業・交通事業者・住民の立場でコストを分担し合う「モビリティ合意形成ゲーム」
  • 「エレベーター」に例えた社会受容性のメタファー(仕組み・リスク・回避法・負担をみんなが知っているからこそ反対する人がいない、という比較)

主なポイント

  • 国連の新基準は「完璧」ではなく「有能で注意深い人間と同等以上」を求めるが、日本では市民の期待水準がそれを大きく上回っている
  • 交通不利な層ほど自動運転バスへの協力意識・利用意図が低下するという逆説的な傾向がある
  • 「乗らない人(ノンユーザー)」をどう巻き込むかが社会実装のカギ
  • リスクを隠さず伝えるリスクコミュニケーションこそが、結果として協力度を高める
  • 技術・エネルギー・制度・社会の4レイヤーを統合的に語り、地域レベルのミクロな文脈に落とし込むことが重要

事例報告:「公共ライドシェア・自動運転先行導入の現場から――成果と壁」/百瀬亮氏(長野県塩尻市 先端産業振興室係長)

事例報告:「公共ライドシェア・自動運転先行導入の現場から――成果と壁」/百瀬亮氏(長野県塩尻市 先端産業振興室係長)

概要

長野県塩尻市は、2024年度に一般道(歩車混在空間・ドライバー席無人・最高速度35km/h)における特定自動運行(レベル4)を実現し、2025年度(先月)には一般市民を乗せた往復1.2kmのレベル4運行を実施しました。塩尻駅と塩尻市役所を結ぶ区間で、8日間で153名の試乗者を集め、利用率は約40%、市内外比は4:6だったといいます。

特徴的なのは、塩尻市の自動運転が単なる交通施策ではなく、産業振興の文脈からはじまっている点です。きっかけは「KADO(公設クラウドソーシング事業)」での3次元地図作成業務でした。子育てや介護で時間制約のある人や障害のある方など、フルタイムでは働きづらい層に就労機会を提供する仕組みとしてはじまったKADOが、アイサンテクノロジーから自動運転用高精度3次元地図の制作を受託したことから、「ここまでの地図をつくれるなら、塩尻で自動運転を走らせないか」という提案につながったとのことです。

塩尻市が目指す都市像は「田園都市構想(市街地の便利さと農山村集落の豊かさの両立)」であり、その実現手段としての交通DXは、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」を基本コンセプトとしています。市街地はオンデマンドバスと自動運転で、市街地と集落の間は定時定路線バスで、集落内はライドシェアで結ぶという階層構造です。

実装の体制面でも特徴があります。アイサンテクノロジー、ティアフォー、KDDI、A-Drive、アルピコ交通などが参画する産学官民共創プラットフォームを構築しており、自治体がプライムコントラクターとなる「対等なアライアンス」を組んでいる点が、塩尻モデルの特徴として強調されました。

コスト面では、車両コスト(1台あたり1億円規模)と運用コストが大きな課題ですが、ガバメントクラウドファンディングを活用して令和6年度に約783万円、令和7年度に約543万円の寄付を集めています。さらに、令和2年度以降の自動運転事業による直接的経済効果は累計約2.2億円に達するとのことです。

社会実装に向けた地道な取り組みも紹介されました。路上駐車削減のためのチラシ配布や看板設置、街路樹の剪定など、自治体だからこそできる「ソフト・ハード両面からの環境整備」に加え、カインズやデリシア(アルピコグループのスーパー)と連携した乗車ポイント還元、シャトレーゼや地域パン店とのコラボ商品販売、小中高校への教育プログラム提供など、企業や地域を巻き込んだ展開が続けられています。

主なポイント

  • 2024年度の一部レベル4走行を経て、2025年度には往復1.2kmのレベル4運行を達成
  • 2027年度には片道約5kmの新たな公共交通としての社会実装を目指す
  • 自動運転を「産業振興」の文脈からスタートさせた点が他自治体と異なる特徴
  • KADOによる地域人材活用・3次元地図の地産地消・教育連携が独自モデルを形成
  • 自治体主導の産学官民共創プラットフォームで対等なアライアンスを構築
  • 単年度ではなく長期投資が必要だが、企業集積・教育・経済効果という形で成果を可視化

事業者報告:「地方展開の現状・EVとの統合・エネルギーマネジメントとの連携」/宮本英氏(アイサンテクノロジー株式会社 モビリティ事業本部執行役員副本部長)

事業者報告:「地方展開の現状・EVとの統合・エネルギーマネジメントとの連携」/宮本英氏(アイサンテクノロジー株式会社 モビリティ事業本部執行役員副本部長)

概要

アイサンテクノロジーは、グループ会社A-Driveとともに、2025年度時点で全国26地域(国土交通省採択17地域、その他9地域)の自動運転事業に参画しています。これまで累計130か所以上の公道実証実験を積み上げてきました。

宮本氏は、自動運転バスの社会実装に向けた課題を4つに整理しました。(1)技術の向上(交通を妨げない自動運転レベル)(2)社会受容性(地域住民・周囲のドライバーの理解)(3)持続可能性(導入コスト・運賃以外の収益源)(4)許認可(申請・承認の短期化と責任分解の明確化)の4点です。

特にフォーカスされたのは社会受容性と持続可能性です。社会受容性の事例としては、塩尻市のKADOによる高精度3次元地図の地産地消モデルが紹介されました。約420名の地域人材が3次元地図の制作・更新を担う仕組みは、(1)地元住民が変化点を素早くキャッチできるという技術的強み(2)柔軟な時間帯で働ける雇用創出(3)「自分がつくった地図が走る車両に乗っている」という当事者意識による認知度・受容性向上、という3つの効果を生んでいます。core塩尻(コミュニティスペース)と組み合わせることで、高齢者の外出機会創出や健康寿命延伸との接続も期待できると述べられました。

持続可能性の課題としては、EV充電インフラの不足が率直に指摘されました。地方の実証現場では充電施設が整っておらず、移動式充電車(後部でエンジンを回しながら発電するタイプ)で対応せざるを得ないケースが多く、騒音問題や環境負荷が発生しているのが実情です。バスの車高に対応する充電施設が少ないこと、近隣の充電ステーションが一般ユーザー優先で借りられず、30分以上離れた場所まで充電のために移動するケースがあることなども現場の実情として共有されました。

主なポイント

  • 全国26地域・累計130か所以上の自動運転実証経験を蓄積
  • 自動運転社会実装には「技術・社会受容性・持続可能性・許認可」の4つの課題がある
  • 高精度3次元地図はカメラ・センサーだけでは限界がある公共交通バスでは必須
  • 塩尻市KADOとの地産地消モデルが社会受容性向上に貢献
  • 大型EVバスに対応する充電インフラ整備が地方で深刻に不足している
  • 自動運転車両の社会実装には、周囲のドライバーや歩行者の「やさしい気持ち」での協力が不可欠

対話セッション(モデレーター:飯田哲也氏/ISEP所長)

3名の登壇者と、フロアから参加した長野県職員、東京都職員、法政大学・茅野恒秀氏、EVsmart Blog編集長の寄本氏らを交え、ディスカッションがおこなわれました。論点は大きく3つでした。

対話セッション(モデレーター:飯田哲也氏/ISEP所長)

経済性とコスト

事業性確保の最有力モデルとして紹介されたのが、神奈川県平塚市の事例です。一般的には黒字路線をそのまま維持し、赤字路線に自動運転を入れるという発想になりがちですが、平塚市では逆に「黒字で稼げる路線を自動運転化し、人手不足の山間部などにドライバーをシフトする」という「逆転の発想」を採用しているとのこと。この戦略は、地方周辺路線の維持と効率化を両立させるひとつの解として注目されました。

樋笠氏は、補助金頼みのモデルが限界に近づきつつある現状を指摘し、海外と比較すると行政の負担率が高い国が多いことを踏まえ、コミュニティ交通の収支改善ノウハウを自動運転に応用する「斜めの横展開」の必要性を述べました。

社会受容性と「交通不利」層へのアプローチ

樋笠氏のフィールド調査で示された「交通不利層ほど協力意識が低い」というパラドックスについて、具体的なアプローチも議論されました。樋笠氏は「将来のために今のうちからコミュニティバスを経験してもらう」というメッセージングの重要性を提示しました。普段バスを使わない層が、いざ運転免許を返納した時に公共交通へ移行できない「0から1のハードル」を下げるために、現役のうちにコミュニティバスを利用しておくことが、結果として地域の公共交通の持続可能性を高めると説明しました。

塩尻市の百瀬氏は、過去にコミュニティバスを廃止してオンデマンドバスに切り替えたところ、生産年齢人口の利用が増え、結果として「コミュニティ交通を支える人材」が広がっていると報告しています。教育を起点に子どもから家族へ広げる、企業連携で乗車のきっかけをつくる、といった現場の工夫も共有されました。

宮本氏は、KADOで地元の方々が3次元地図をつくることで、「私これつくったの」と家族や友人に話すかたちで認知度が広がっている点を、社会受容性向上の好事例として挙げました。

茅野恒秀氏(法政大学)は、自身がかかわった長野県のゼロカーボン戦略の中間見直しで、モビリティ分野がもっとも手がついていない弱点であることを指摘しました。一方で、塩尻市や飯田市のような自治体レベルの先進事例が県レベルの取り組みを牽引する構図が見えており、グローバルな技術を地域の文脈に落とし込み、実践しながら地域にノウハウを積み上げていくことの重要性が強調されました。

許認可と法制度の課題

特定自動運行の許可取得には、車両認可から特定自動運行許可まで含めて1年半〜2年程度かかるのが現状です。塩尻市の百瀬氏は、「事前調整がすべて」と述べ、所管省庁・部局と密にコミュニケーションをとり、許可までのスケジュールを逆算して動くことで、塩尻市では2回目の許可取得を約2週間で実現できたと共有しました。

樋笠氏は、責任分担の不透明さが課題であることを指摘しました。信号機連携・通信設備・カメラなど、関係する主体が多くなるほど責任が分散しやすく、ブラックボックス化してメディアや一般から批判されやすい構造になっています。だからこそ、コンソーシアムや産学官連携で「みんなで取り組んでいる」という姿勢を明確に示すこと、そして「よちよち歩きの赤ちゃん」のように現状の技術水準を率直に伝え、過剰な期待を抑えることが、説明責任を果たす上で重要だと述べました。

東京都の矢嶋氏からは、現状ですぐにワンストップの権限移譲をおこなうのは難しいものの、フォーマットやガイドラインを整備して所管省庁・部局と共有することが当面の手段になり得る、というコメントが寄せられました。

EVインフラの現実

寄本氏からは、大型車に対応する急速充電ステーションが日本ではきわめて少なく、自動運転バスや配送用トラックがどこで充電するのかが隠れた問題になっているとの指摘がありました。最近、横浜市とエプソンの協力で公道上に大型車対応の急速充電ステーションを設置する取り組みもはじまっており、こうした事例の広がりが期待されます。

まとめ

第1回のサロンを通じて見えてきたのは、自動運転バスの社会実装が、もはや技術論だけでは進まないという現実です。レベル4の運行は技術的に可能になりつつあり、塩尻市のように一般市民を乗せて1.2kmを走らせる実例も生まれています。一方で、車両コスト(1台あたり1億円規模)、許認可期間(1年半〜2年)、充電インフラ不足、責任分解の不透明さといった社会実装上の壁は依然として高いものがあります。

もっとも印象的だったのは、樋笠氏の研究が示した「交通不利な人ほど協力意識が低い」というパラドックスでした。本来もっとも自動運転を必要とする層が、もっとも受け入れにくい立場にあるという構造を踏まえると、技術や制度の整備と並行して、市民への丁寧なリスクコミュニケーション、教育、合意形成のプロセスを地道に積み上げていくことが欠かせません。

クロージングで樋笠氏が「明日からできること」として提示したのは、「タテ割りのヨコ連携」でした。自動運転事業を単独黒字化することはほぼ不可能だからこそ、健康政策やウェルビーイングなど他の予算と組み合わせ、「ついでに自動運転バスにも乗ってもらう」ような統合アプローチがカギを握ります。塩尻市のKADO・core塩尻・自動運転を組み合わせたモデルは、まさにその先行例と言えるでしょう。

百瀬氏からは、自動運転を持続的に運営していくため、現在、交通事業者とも連携し、コミュニティバスやオンデマンド交通も含めた新たな地域交通事業の構築を進めていることが共有されました。また、先日、塩尻では高齢ドライバーによる痛ましい事故も発生しており、百瀬氏は「もし公共交通がより使いやすく、自動運転が普及していれば、事故を防げた可能性もあったのではないか」と述べ、自動運転は単なる技術ではなく、地域の安全と移動を支える社会インフラとして必要性が高まっていることが強調されました。

宮本氏が締めくくった「自動運転バスを見かけたらアクセルを緩めて譲ってあげる、優しい気持ちで接してほしい」というメッセージは、技術と社会の橋渡しを象徴する言葉として、参加者の記憶に残るものとなりました。

ISEPの飯田所長は、テクノロジーの急激な変化に行政の制度づくりが追いつかない現状を踏まえ、「さまざまな立場で一歩ずつ進めていけるかたちに」とコメント。

今年度のEV地方創生フォーラムは、EVインフラに自動運転や公共ライドシェアのレイヤーを重ねながら、引き続き対話の場を提供していきます。